東京高等裁判所 平成7年(行ケ)74号 判決 1997年6月04日
神奈川県藤沢市辻堂西海岸1丁目6番7号-512
原告
浅見軍四郎
東京都品川区大井2丁目22番14号
原告
石丸正敏
両名訴訟代理人弁護士
高橋早百合
弁理士
中澤健二
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
杉崎一也
同
森田信一
同
及川泰嘉
同
小川宗一
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告ら
特許庁が、平成2年審判第8985号事件について、平成6年12月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和57年12月31日、名称を「急速充電装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭57-228254号)が、平成2年3月5日に拒絶査定を受けたので、同年5月23日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成2年審判第8985号事件として審理し、平成3年12月20日に出願公告した(特公平3-79938号)が、特許異議の申立てがあり、さらに審理した結果、平成6年12月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成7年2月20日、原告らに送達された。
2 本願発明の要旨
接続されたバッテリーの端子電圧が指定電圧になるまで放電させる放電回路と、放電回路からのバッテリーの端子電圧が指定電圧に達したことを知らせる信号により放電から充電に切換える回路と、バッテリーに指定された定電流を供給して充電する定電流回路と、バッテリーの端子電圧もしくは比例電圧をすくなくともそのピーク点付近において検出記憶し、端子電圧もしくは比例電圧がピーク点より低下したとき充電停止信号を発する電圧検出回路と、電圧検出回路からの充電停止信号を受けて前記定電流回路の作動を停止する充電停止回路とを備えたことを特徴とする急速充電装置。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前国内において頒布された刊行物である特開昭55-109143号公報(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び米国特許第3938021号明細書(以下「引用例2」という。)又は特開昭53-28246号公報(以下「引用例3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例の記載事項の認定は認める。本願発明と引用例発明1との一致点の認定(審決書11頁16行~12頁3行)は争う。相違点の認定(審決書12頁5行~13頁8行)は認めるが、その判断を争う。
審決は、本願発明と引用例発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点イ、ロの判断を誤り(取消事由2及び3)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明と引用例発明1との一致点の認定の誤り)
審決は、本願発明の「指定電圧」と引用例発明1の「基準電圧」とが等価ないし同義のものであることを前提に、これを一致点と認定しているが、以下のとおり誤りである。
本願発明も引用例発明1も、ともに、二次電池(蓄電池)を対象とする充電装置であって、充電をする前に放電を行い、電池の端子電圧をある定められた電圧にまで低下させた後に充電を行うものであって、このための放電回路を有し、電池の端子電圧が定められた電圧に達したことを知らせる放電回路からの信号により放電を停止し充電に切り換える回路を有することにおいて一致することは、認める。
しかし、引用例1(甲第14号証、審判における甲第1号証)において、放電を停止し充電に切り換える電圧である「基準電圧」という用語は、引用例1の特許請求の範囲には記載がなく、発明の詳細な説明の、それも実施例の説明中にだけ記載されている。そして、実施例の説明中には、「基準電圧」の意味が直接には記載されていない。
そこで、「基準電圧」の意味は、引用例1の実施例の説明はもとより、発明の目的、構成等の記載から総合的に理解されるべきである。
引用例1には、従来技術の問題点として、「充電状態で放置しておくと不活性化の現象を生じ規定の容量の出力をとり出せなかった。」(甲第14号証2欄1~3行目)とあり、発明の目的として、「したがって、本発明の目的は不活性化の状態を容易に活性化の状態にできる充電器を提供することである。」(同号証2欄6~8行)とあり、発明の目的を達成するための手段として、「軽微な不活性化状態にある電池は1度深い放電を行ってから通常の充電を行なえば完全にもとにもどり、・・・本発明によれば、・・・充電する前に必らず放電を行うようにする。また、そのとき、充電しようとする二次電池の容量を検出して十分深い放電を行った後切替スイッチにより充電状態に切換えて充電する。」(同2欄9~19行)、「バッテリー11の端子電圧は基準電圧と比較されて、ニッケルカドミウム電池の場合1セル当り0.5V程度迄の深い放電が行なわれる。」(同3欄19行~4欄2行)との記載がある。
以上の記載から、引用例1の「基準電圧」は、バッテリーが完全放電となる電圧であるか、完全放電とならないとしても、少なくとも、ニッケル・カドミウム電池であれば、深い放電となる1セル当たり0.5V程度であることは明らかである。
これに対し、本願発明の「指定電圧」についてみると、「本発明は、上記の知験に基づき、充電するバツテリーをまづ放電させてその残存電気量を満充電後の放電電圧特性が良好となる水準まで低下させ、次いで、定電流による充電を行い、該バツテリーの端子電圧がピーク点を示しやがてピーク点より低下し満充電となつたときに自動的に充電を停止する急速充電装置の提供を目的とするものである。」の浅い放電であることも明白である。
すなわち、ニッケル・カドミウム電池を放電する場合、ニッケル・カドミウム電池を構成しているどのセルも逆充電にならないように注意する必要があるところ、6セル7.2Vのニッケル・カドミウム電池の場合1セル当たり1Vをある程度下回るまで放電すると、いずれかのセルが逆充電となることは当業者にとって自明のことである。
引用例発明1のように1セル当たり0.5Vというような深い放電は、不活性化したニッケル・カドミウム電池を活性化することはできるが、反面、ニッケル・カドミウム電池に大きなダメージを与えることになり、満充電後の放電特性の急激な劣化をもたらすだけでなく、本来は300回程度の充放電の繰り返しに耐えられるニッケル・カドミウム電池の寿命を4分の1程度に著しく短縮してしまう欠陥がある。
したがって、本願発明の充電に先行する「放電」は、1セル1.2Vで6セルの7.2Vのニッケル・カドミウム電池であれば1セル当たり1V程度の浅い放電を意味するものであり、「放電」を停止する目標電圧である「指定電圧」は、1セル1.2Vで6セル7.2Vのニッケル・カ(甲第18号証2欄22行~3欄4行)、「放電停止電圧の指定の目安としては、1セル当たり1.2V、6セル7.2VのバツテリーBTの場合6V、つまり、1セル当たり1Vとなるまで放電するとよい。」(同号証4欄38~41行)等の記載によれば、本願発明の目的である「満充電後の放電電圧特性が良好となる」とは、ニッケル・カドミウム電池につき、部分放電を繰り返しているとその電池が浅い放電深度のサイクルで受けた履歴を記憶して、それが次回の放電時の放電電圧の急低下として現れるいわゆるメモリ効果を除去し、長時間、規定の容量の出力をとり出すことができるという意味であることは明白である(甲第19号証「トランジスタ技術」1993年12月号389頁以下、甲第20号証「別冊トランジスタ技術電池活用ハンドブック」133頁以下)。この本願発明の目的が、引用例発明1の不活性化の状態を容易に活性化できる充電器の提供という目的とは全く異なったものであることも明白である。
また、ニッケル・カドミウム電池の特性を考えるならば、これらの記載から、本願発明の「満充電後の放電電圧特性が良好となる電圧までの放電」が、1セル当たり1V程度ドミウム電池であれば1セル当たり1V程度を意味することは明白である。
なお、ニッケル・カドミウム電池には、1セル1.2Vで6セルの7.2Vのものだけでなく、1セル1.2Vで10セルの12V、1セル1.2Vで20セルの24Vといったものも存在する。前記のとおり、ニッケル・カドミウム電池には、放電すると最も端子電圧の低いセルの端子電圧が速やかに低下し、残存電気量が最も少ないセルが最初に空になっていく特性があるから、10セルあるいは20セルのニッケル・カドミウム電池を、どのセルも逆充電とならないように放電するためには、「指定電圧」を1セル当たり1.1V~1.2Vとする必要がある。本願の特許請求の範囲に「指定電圧」の数値を限定できない理由がこれである。
以上述べたとおり、引用例発明1は、深い放電を充電する前に行うものであって、引用例1の「基準電圧」は、この深い放電の目標電圧である。
しかし、本願発明は、満充電後の放電電圧特性を良好なものとする目的で、換言すれば、放電時間が長くしかも放電時間内の放電電圧の低下がないようにする目的で、浅い放電を充電する前に行うものでちる以上、本願発明の「指定電圧」は、この浅い放電の目標電圧と解する他はない。
そして、引用例1には、深い放電であればニッケル・カドミウム電池を活性化できるとの記載は存在するが、本願発明のような浅い放電でも活性化できることを示唆する記載は存在しない。
このように、引用例1の「基準電圧」と本願発明の「指定電圧」は、それぞれの発明の目的の相違から、全く意味の異なるものである。
2 取消事由2(本願発明と引用例発明1との相違点イの判断の誤り)
審決は、本願発明と引用例発明1との相違点イとして、「前者(注・本願発明)は前記構成Cにおいて「バッテリーに指定された『定』電流を供給して充電する『定』電流回路で」あるのに対して、後者(注・引用例発明1)の前記構成C1は「『定電流に近い形で』充電する回路」としている点」(審決書12頁5~9行)を挙げ、引用例1の「定電流に近い形で充電する回路」を本願発明の「指定された定電流を供給して充電する定電流回路」に変更する操作(同12頁14~16行)は、「ニッケル・カドミウム蓄電池において定電流で充電すること、及び、急速充電は常套手段・・・であり、その際、特定の電流値で充電することも常套手段であると認められるから、・・・当業者が容易に考えられることと認められる。」(同13頁13~18行)と判断しているが、誤りである。
引用例発明1の放電回路は、長時間放電のための回路であり、引用例発明1が、このような長時間放電の回路を採択した理由は、引用例発明1が1セル当たり0.5Vという深い放電を行うことを前提としている。もし、引用例発明1において、大電流による充電、つまり、急速充電を行うと共に、大電流による放電を行うとすれば、バッテリーを構成しているいずれかのセルの転極、逆充電が不可避となり、バッテリーに与えるダメージが極めて大きい。引用例発明1は、長時間放電と長時間充電の回路を採択することにより、深い放電を行うことによるバッテリーへのダメージを極力軽減することを図ったものである。
したがって、引用例発明1においては、長時間放電のための回路と長時間充電のための回路の採択は必然であり、他の手段に置き換えることは不可能である。
ところで、ニッケル・カドミウム電池の充電の際に、引用例2及び3に記載のような、端子電圧が降下したときに充電を停止する方式を採用する場合、引用例1の「定電流に近い形で充電する回路」は採択できない。「定電流に近い形で充電する回路」では、充電末期に電池の端子電圧が急激に上昇した後下降する現象が発現しないからである。充電末期に電池の端子電圧が急激に上昇した後下降する現象が発現するのは、大電流による充電、つまり、急速充電の場合だけである。
確かに、審決認定のとおり、「ニッケル・カドミウム蓄電池において定電流で充電すること、及び、急速充電は常套手段であり、その際、特定の電流値で充電することも常套手段である」が、そうだとしても、前記のとおり、引用例発明1にとって、長時間放電回路と長時間充電回路の採択が必須であってこれを他の手段に置き換えることが不可能であるから、引用例発明1の充電電流を定電流に変更すると共に急速充電に変更することは、本願発明のように浅い放電に変更しない限り、不可能である。
しかし、引用例1には、浅い放電でも電池の活性化が実現できることを示唆する記載はないし、充電の前に浅い放電をすることによって、満充電後の放電電圧特性を良好とすることができること、言い換えれば、放電時間が長くしかも放電時間内の放電電圧が低下しないようにすることができることを示唆する記載もない。もとより、引用例2及び3にもそのような記載はない。
このように、浅い放電でも電池の活性化が実現できること、及び、充電の前に浅い放電をすることにより満充電後の放電電圧特性を良好とすることができること、言い換えれば、放電時間が長くしかも放電時間内の放電電圧の低下がないようにすることができることは、引用例1~3に記載されておらず、また、このことが本願の出願前公知であることの証拠もない以上、引用例発明1の「定電流に近い形で充電する回路」を「指定された定電流を供給して充電する回路」に変更すると共に、「急速」充電装置に変更する操作は当業者が容易に考えられるものではない。
3 取消事由3(本願発明と引用例発明1との相違点ロの判断の誤り)
審決は、本願発明と引用例発明1との相違点ロについて、引用例発明1に、「バッテリーの端子電圧もしくは比例電圧をすくなくともそのピーク点付近において検出記憶し、端子電圧もしくは比例電圧がピーク点より低下したとき充電停止信号を発する電圧検出回路」(本願発明の構成D)を付加し、また、「電圧検出回路からの充電停止信号を受けて前記定電流回路の作動を停止する充電停止回路」(本願発明の構成E)とを付加すること(審決書12頁17行~13頁4行)は、「ニッケル・カドミウム蓄電池において充電末期に電池の端子電圧は急激に上昇した後下降するという現象、及び、この現象を利用してその電圧のピーク点を検出して充電を停止する、かつ、その際その電圧の立ち下がりを検出して充電を停止することは、本願の出願前公知であると認められるから、・・・当業者にとって容易に考えられることと認められる。」(同13頁末行~14頁11行)と判断しているが、誤りである。
本願発明の上記「電圧検出回路」(構成D)と、「充電停止回路」(構成E)が本願の出願前公知であることは認めるが、これらの回路が公知であるとしても、引用例発明1に、かかる「電圧検出回路」と「充電停止回路」を付加することは、当業者にとって容易に考えられることではない。
前記のとおり、充電の前に浅い放電をすることにより満充電後の放電電圧特性を良好とすることができること、すなわち、放電時間が長くしかも放電時間内の放電電圧の低下がないようにすることができることが、本願の出願当時、公然知られておらず新規であった以上、引用例発明1にとって「指定された定電流を供給して充電する回路」に変更すると共に「急速」充電装置に変更し、更に、本願出願前公知であった引用例2及び3の「電圧検出回路」と「充電停止回路」を付加することは当業者にとって容易に考えられることではない。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1について
本願発明の特許請求の範囲の記載は、それだけで本願発明の要旨を一義的に把握できる記載であって、発明の詳細な説明を参照しなければ、発明の要旨を認定できないような意味不明、または意味の不明瞭な記載はない。
すなわち、本願発明の詳細な説明には、「指定電圧」につきその技術的定義がされていない以上、「指定電圧」につきその意味はごく普通の意味にとるべきである。
特許請求の範囲記載の「指定電圧」の「指定」を、「それとさし定めること」(広辞苑)、「それと示して定めること」(日本語大辞典・講談社)という辞書記載の意味にとっても、特許請求の範囲の「指定電圧」は、特許請求の範囲の記載において、その意味が不明とはならない。
さらに、引用例発明1の「基準電圧」を「指定電圧」と、また、本願発明の「指定電圧」を「基準電圧」と称しても、引用例発明1においても、本願発明においても、その発明の把握において支障を来すことはない。
また、発明の詳細な説明には、本願発明の「急速充電装置」がニッケル・カドミウム電池専用のものであると限定する記載もなく、特許請求の範囲には、単に「バッテリー」と記載されているのみである。
そうすると、本願発明は、あらゆる種類のバッテリー及び単一のセルから構成されるバッテリーを、その充電の対象としていることは明らかである。
したがって、本願発明の「指定電圧」の解釈に発明の詳細な説明に記載されている実験例を参照する必要はなく、本願発明の「指定電圧」を「浅い放電の目標電圧」と限定解釈すべきであるとの原告らの主張は失当である。
2 取消事由2について
引用例発明1の「定電流に近い形で充電する回路」を「定電流回路」に変更しても、引用例1の目的を達成し、効果を奏するに何ら支障は認められない。しかも、「定電流充電法」は、原告らも認めるとおり、蓄電池の充電法において常套手段なのである。そうすると、上記変更は当業者にとって容易にできる事項にすぎない。
しかも、引用例2及び3に、定電流で充電し、かつ、バッテリーの充電末期のピーク電圧を検出し充電を終了させることが開示されているのであるから、引用例発明1における「定電流に近い形で充電する回路」を公知の「定電流回路」に置き換え、かつ、公知の「バッテリーの充電末期のピーク電圧を検出し充電を終了させる」回路を付加することに何らの技術的困難性はない。
また、原告らは、本願発明の「指定電圧」を「浅い放電」に限定解釈することを前提としているが、かかる主張が失当であることは、前述のとおりである。
3 取消事由3について
原告らは、ここでも本願発明の「指定電圧」を「浅い放電」に限定解釈することを前提としているが、かかる主張が失当であることは、前述のとおりである。
また、「急速充電」とは、通常の充電電流よりも大きな電流で充電し、もって短時間で充電を完了することであるが、かかる急速充電法が本願出願前において常套手段であることは、原告も認めるところであり、かつ、「急速充電」が上記のとおりのものであるから、引用例発明1における「定電流に近い形で充電する回路」の出力である充電電流を大きなものにすれば、「急速」充電器に変更できることは、明らかである。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明と引用例発明1との一致点の認定の誤り)について
原告らは、本願発明は、満充電後の放電電圧特性を良好なものとする目的とし、充電をする前に浅い放電を行うものであるから、本願発明の「指定電圧」とは、この浅い放電の目標電圧であるのに対し、引用例発明1は、不活性化状態にある電池をもとに戻らすことを目的とし、充電をする前に深い放電を行うものであるから、引用例発明1の「基準電圧」は、本願発明の「指定電圧」とは異なると主張する。
しかし、本願発明も引用例発明1も、ともに、ニッケル・カドミウム電池を含む二次電池を対象とする充電装置であって、充電をする前に放電を行い、電池の端子電圧をある定められた電圧にまで低下させた後に充電を行うものであって、このための放電回路を有し、電池の端子電圧が上記定められた電圧に達したことを知らせる信号により放電を停止し充電に切り換える回路を有することにおいて一致することは、当事者間に争いがない。また、本願発明の要旨には、上記「放電を停止し充電に切り換える回路」を駆動する信号が「放電回路からの・・・信号」とされているが、本願発明と引用例発明1とがこの点において実質的に同じ構成を有していることは、本願明細書(甲第18号証)及び引用例1(甲第14号証)の記載から明らかである。
そして、前示当事者間に争いのない本願発明の要旨には、放電を停止し充電に切り換える電圧を示す「指定電圧」が、原告ら主張のような浅い放電の目標電圧であることを示す構成を規定していないことは明らかであるし、「指定電圧」との用語自体は、「指定」との語が「それとさし定めること」(広辞苑第四版)を意味することは当裁判所に顕著であるから、「指定電圧」とは、それと定められた電圧、すなわち、本願発明においては、放電を停止し充電に切り換える電圧として定められた電圧という意義に解され、これ以上に特定の技術内容を想定させる用語ということはできない。本願明細書(甲第18号証)の発明の詳細な説明の項にも、原告ら主張のような「深い放電」と対比される「浅い放電」に関する記載はなく、「指定電圧」につき特段の定義付けはされていない。もっとも、実施例の説明としては、「バッテリーBTの端子電圧の設定、即ち、放電停止電圧の指定の目安としては、1セル当たり1.2V、6セル7.2VのバツテリーBTの場合6V、つまり、1セル当たり1Vとなるまで放電するとよい。」(同号証4欄37~41行)と記載されてはいるが、ここで記載されている「1セル当たり1V」という電圧が放電停止電圧の指定の目安であるにすぎず、本願発明における「指定電圧」が「1セル当たり1V」程度に限定されるものでないことは、その記載自体から明らかである。
一方、引用例1(甲第14号証)には、その発明の詳細な説明の項に、実施例の説明として、「バッテリー11の端子電圧は基準電圧と比較されて、ニッケルカドミウム電池の場合1セル当り0.5V程度迄の深い放電が行なわれる。放電完了を検出するとリレー7を動作させてスイッチ5をD側に接続し、充電が開始する。」(同号証3欄19行~4欄4行)と記載されているが、その特許請求の範囲には、「二次電池を充電する充電器に於て、充電回路と、放電回路と、前記両回路の切換スイッチと、充電される二次電池の容量を検出して前記切換スイッチを駆動する制御回路とを具備することを特徴とする充電器」と記載され、放電を停止し充電に切り換える基準となる基準電圧については、何らの記載がない。すなわち、引用例発明1は、その発明の構成自体としては、任意の基準電圧をとることを許容するものであると認められる。
そうすると、引用例発明1の上記構成において、本願発明の実施例の条件である前示「バッテリーBTの端子電圧の設定、即ち、放電停止電圧の指定の目安としては、1セル当たり1.2V、6セル7.2VのバツテリーBTの場合6V、つまり、1セル当たり1Vとなるまで放電する」ように基準電圧を定めることはもとより可能であり、この場合、引用例発明1の基準電圧と本願発明の指定電圧が異なるものといえないことは明らかである。
この点に関して、原告らは、「用語の定義という形式で用語の意味内容が記載されていなくても、発明の目的、効果を参酌して特許請求の範囲の用語を解釈すべきことは当然である」と主張する。
しかし、本願発明の目的、効果は、本願発明の要旨として示された発明についていわなければならないことは当然であるところ、上記のとおり、本願発明の要旨として示された発明における指定電圧と引用例発明1における基準電圧とが異なるものとはいえない場合があるのであるから、本願発明の指定電圧の意義を限定的に解釈することを前提として、これに基づきニッケル・カドミウム電池のメモリ効果の除去等が本願発明の目的、効果であるとし、これが引用例発明1の目的、効果と異なることをいう原告らの主張は採用できない。
以上のとおり、本願発明の「指定電圧」は、これを引用例発明1の「基準電圧」と区別することはできないといわなければならず、したがって、引用例発明1の「基準電圧」が本願発明の「指定電圧」と実質的に同義であるとして、一致点の認定をした審決に誤りはない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2及び3(本願発明と引用例発明1との相違点イ及びロの判断の誤り)について
本願発明の構成のうち、引用例発明1との各相違点(審決書12頁5行~13頁8行)に係る構成、すなわち、「バッテリーに指定された定電流を供給して充電する定電流回路と、バッテリーの端子電圧もしくは比例電圧をすくなくともそのピーク点付近において検出記憶し、端子電圧もしくは比例電圧がピーク点より低下したとき充電停止信号を発する電圧検出回路と、電圧検出回路からの充電停止信号を受けて前記定電流回路の作動を停止する充電停止回路を備えたこと」は、引用例2(甲第15号証)に開示されている公知の急速充電器が備える構成であることは、原告らも認めるところである。
すなわち、本願発明は、この公知の構成を備えた急速充電装置に、引用例1に開示されている公知の「接続されたバッテリーの端子電圧がある定められた電圧になるまで放電させる放電回路と、放電回路からのバッテリーの端子電圧が上記定められた電圧に達したことを知らせる信号により放電から充電に切換える回路」を結合させたものにほかならないと認められる。
そして、引用例発明1に示される放電特性を改善するための技術、すなわち、充電をする前に基準電圧まで放電させる放電回路を設ける技術は、ニッケル・カドミウム電池の充電をも対象としたものであること、また、引用例2に示される急速充電器がニッケル・カドミウム電池の充電に用いられるものであることは、当事者間に争いがない。
このように引用例発明1及び引用例2に示される充電器が同一の技術分野に属するものである以上、引用例2に示される公知の急速充電器に引用例発明1の充電器の技術を組み合わせること、すなわち、引用例発明1と引用例2に記載された発明に基づいて本願発明の構成に想到することは、当業者にとって容易にできることといわなければならず、本件全証拠によっても、これを組み合わせることが当業者にとって困難であることを根拠づけるに足りる資料を見出すことができない。これに対する原告らの主張は採用できない。
したがって、本願発明は引用例発明1と引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の判断は正当である。
取消事由2及び3も理由がない。
3 以上のとおりであるから、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他番決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成2年審判第8985号
審決
神奈川県藤沢市辻堂西海岸1-6-7-512
請求人 浅見軍四郎
東京都品川区大井2-22-14
請求人 石丸正敏
東京都千代田区神田錦町3丁目19番地 中沢ビル
代理人弁理士 中沢健二
昭和57年特許願第228254号「急速充電装置」拒絶査定に対する審判事件(平成3年12月20日出願公告、特公平3-79983)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
第1、出願日、発明の要旨認定等
1、本件審判請求に係る特許願(以下「本願」という)は、昭和57年12月31日に出願されたものであって、当審で出願公告されたところ、「野田陽男」より特許異議申立がなされたものであって、願書に添付した明細書と図面の記載からみて、その発明の要旨(以下「本願発明」という)は、特許請求の範囲に記載された下記の点にあるものと認められる。
記
「A 接続されたバッテリーの端子電圧が指定電圧になるまで放電させる放電回路と、
B 放電回路からのバッテリーの端子電圧が指定電圧に達したことを知らせる信号により放電から充電に切換える回路と、
C バッテリーに指定された定電流を供給して充電する定電流回路と、
D バッテリーの端子電圧もしくは比例電圧をすくなくともそのピーク点付近において検出記憶し、端子電圧もしくは比例電圧がピーク点より低下したとき充電停止信号を発する電圧検出回路と、
E 電圧検出回路からの充電停止信号を受けて前記定電流回路の作動を停止する充電停止回路を備えた
F ことを特徴とする急速充電装置」
なお、上記符号A~Fは、当審決で便宜的に付した。
2、そして、その発明の目的とするところは、
「充電するバッテリーをまず放電させてその残存電気量を満充電後の放電電圧特性が良好となる水準まで低下させ、次いで、定電流による充電を行い、該バッテリーの端子電圧がピーク点より低下し満充電となったときに自動的に充電を停止する急速充電装置の提供」の点にあるものと認められる。
第2、特許異議申立人の主張
特許異議申立人「野田陽男」(以下「異議申立人」という)は、甲第1号証として特開昭55-109143号公報(以下「甲1」という)を、甲第2号証として米国特許第3938021号明細書(以下「甲2」という)、及び、甲第3号証として特開昭53-28246号公報(以下「甲3」という)を提示して、
A、本願発明と甲1のものとは、本願発明では、バッテリー電圧がピーク点より低下したときに充電を停止するようにしているのに対して、甲1では、その点が記載されていない点で相違する。
B1、しかしながら、バッテリー電圧がピーク点よりも低下したとき充電を停止するようにすることは甲2、甲3に記載されており、
B2、甲2、甲3のものを甲1のものに用いることは容易である。
C、従って、本願発明は、その出願前公知の前記甲1~甲2に記載された発明から当業者が容易に発明し得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
旨主張している。
第3、審判請求人の答弁
1、前記甲1に開示されている充電回路は、定電流回路ではなく、準定電流回路というべきものであり、また、前記甲1には充電停止回路が開示されていない。
2、仮に、異議申立人が主張するように、本願発明の前記C乃至Dの構成要件が前記甲2及び甲3に開示されていたとしても、
3、前記甲2及び甲3には、本願発明の前記A及びBの構成要件、即ち、満充電後の放電電圧特性が良好なものとなる迄の放電後の充電への切換えは、開示されていない。
旨主張している。
第4、証拠の認定
1、本願出願前国内において頒布された前記甲1には、
「ニッケルカドミウム電池の例をとると充電状態で放置しておくと不活性化の現象を生じ規定の容量の出力を取り出せなかった。またこのような電池を従来の充電器で充電しても規定の容量の出力を取り出せる状態にはできなかった。」
という従来の技術欠点を指摘し、
「軽微な不活性化の状態にある電池は1度深い放電を行ってから通常の充電を行えば完全にもとにもどり、かなり不活性化した電池でも2~3度完全放電完全充電を繰り返せばもとにもどって活性化されることが解っている。」
という知見に基づき、
「充電する前に必ず放電を行うようにし、そのとき、充電しようとする二次電池の容量を検出して十分深い放電を行った後切り換えスイッチにより充電状態に切り換えて充電する充電器を提供し、もって、通常の充電という日常作業の中で電池の不活性化の問題を解決する」
ことを目的とした、
「A1 後記リレーにより動作する切替スイッチ(5)のC側接点と放電抵抗(10)からなり、バッテリー(11)の端子電圧が基準電圧になるまで放電させる放電回路と
B1 バッテリー(11)の端子電圧と基準電圧(9)とを比較してバッテリー(11)が完全に放電されたことを確認しリレー(7)を駆動する制御回路(8)と、上記リレー(7)により動作する充、放電の切り替えスイッチ(5)と
C1 交流入力電圧をトランス(1)により適当なレベルに変換した後、整流器(2)、コンデンサー(3)で直流に変換し、負荷抵抗(4)及び上記切替スイッチ(5)のD側接点を通して定電流に近い形で充電する回路と、
F1 からなる充電器」
の記載が認められる。
2、本願出願前国内において頒布された前記甲2には、
「C2 電池(10)を充電するための定電流源(16)と、
D2 電池(10)の端子電圧を分圧するための分圧抵抗(22、24)と、分圧された電圧によりダイオード(26)を介して充電されるキャパシター(28)と、分圧された電圧とキャパシター(28)の充電電圧を入力とする高入力インピーダンスの増幅器(34)と、前記増幅器(34)の出力端子にベースを接続されたトランジスタ(48)とから構成された満充電検出装置(20)と、
E2 上記満充電検出装置のトランジスタ(48)のコレクタに入力側を接続され、出力側を前記定電流源(10)に接続され、上記トランジスタ(48)のコレクタ電圧が0から供給電圧に上昇すると、上記定電流源(16)による充電を停止する信号を上記出力側に出力するオンーオフ制御手段(18)と
F2 からなる電池急速充電回路」
が記載されているものと認められ、
前記「満充電検出装置(20)」は、ニッケルーカドニューム電池等の満充電期におけるピーク期に生じるピーク電圧を検出し、定電流源16の作動すなわち充電を停止させるものと認められる。
3、本願出願前国内において頒布された前記甲3には、
「密閉型ニツケル・カドミウム蓄電池の充電において、充電終末での電池の電池電圧が低下する」という知見に基づき、
「この電池電圧の立ちさがりを検出して充電終末を検知し、もって急速充電を行った場合でも有効に密閉型ニツケル・カドミウム蓄電池の充電終末を検出し、充電を終了させる充電制御装置を得る」ことを目的とする
「C3 電源(1)からリレー接点(8)を介して蓄電池(2)を充電する充電回路と、
D3 この蓄電池(2)の電池電圧を検出する電圧検出装置(3)と、この電圧検出装置(3)の出力である電池電圧(Ea)と後記記憶電圧(Eb)とを入力とし、電池電圧(Ea)>記憶電圧(Eb)のときダイオード(12)を介して、電池電圧(Ea)を記憶する電気化学素子(9)を充電する比較器(4)と、この電気化学素子(9)の両端の電圧を増幅し、前記記憶電圧(Eb)を出力する演算増幅器(14)と、
E3 電池電圧(Ea)と前記記憶電圧(Eb)とを入力とし、記憶電圧(Eb)-電池電圧(Ea)が一定値以上になると正の高電圧(Ec)を出力する演算増幅器(11)と、この演算増幅器(11)の出力端子にベースが、コレクタにリレー(7)を接続されたトランジスタ(17)と、
U このトランジスタ(17)のエミッタ・コレクタ間に接続された急速充電開始用の押しボタン・スイッチ(10)とからなり、
F3 からなる急速充電制御装置」
が記載されているものと認められ、この「充電制御装置」は、充電中の蓄電池電圧が、その最高電圧から一定電圧以上低下すると充電を終了するように動作するものと認められる。
第4、比較
本願発明(以下「前者」という)と前記甲1記載の「充電器」(以下「後者」という)とを比較すると、以下の事項が認められる。
1-1、前者の「指定電圧」は後者の「基準電圧」と、
前者の「充電装置」は後者の「充電器」と
それぞれ、等価ないし同義のものと認められること、
1-2、後者の前記構成A1は、バッテリーの端子電圧が基準電圧になるまで放電させるものであるから、前者の前記構成Aは、後者の前記構成A1と、同一の構成であると認められること、
1-3、前者の前記構成Bは、後者の前記構成B1と、
同一の構成であると認められること、
1-4、前者の前記構成Cにおける「バッテリーに定電流を供給して充電する電流回路」は、後者の前記構成C1における「交流入力電圧をトランス(1)により適当なレベルに変換した後、整流器(2)・コンデンサー(3)で直流に変換し、負荷抵抗(4)を通してバッテリー(11)を充電する回路」とは、それぞれ、同一の構成と認められること。
2、したがって、両者間の一致点及び相違点は、下記のとおりであると認められる。
2-1 一致点
「接続されたバッテリーの端子電圧が指定電圧になるまで放電させる放電回路と、
放電回路からのバッテリーの端子電圧が指定電圧に達したことを知らせる信号により放電から充電に切換える回路と、
バッテリーに指定された電流を供給して充電する電流回路と
を備えた充電装置」
2-2 相違点
イ、前者は前記構成Cにおいて「バッテリーに指定された「定』電流を供給して充電する「定』電流回路で」であるのに対して、後者の前記構成C1は「『定電流に近い形で』充電する回路」としている点、
ロ、後者は、前者の前記構成D及びEを備えていない点
3、すなわち、本願発明は、甲1記載の「充電器」対して、
3-1、後者の前記構成C1における「定電流に近い形で充電する回路」を「指定された定電流を供給して充電する回路」とし、
3-2、「バッテリーの端子電圧もしくは比例電圧をすくなくともそのピーク点付近において検出記憶し、端子電圧もしくは比例電圧がピーク点より低下したとき充電停止信号を発する電圧検出回路」を付加し、
3-3、「電圧検出回路からの充電停止信号を受けて前記定電流回路の作動を停止する充電停止回路」とを付加し、
3-4、後者の前記構成F1「急速」充電装置とする、
操作を施した充電装置を包摂しているものと認められる。
第5、判断
前記操作3-1~3-4の容易性につき検討する。
1、前記操作3-1及び3-4について
ニツケル・カドニウム蓄電池において定電流で充電すること、及び、急速充電は常套手段(例えば、前記甲第2及び甲第3参照)であり、その際、特定の電流値で充電することも常套手段であると認められるから、前記操作(1)及び(4)は当業者が容易に考えられることと認められる。
2、前記操作3-2及び3-3について
前記甲2及び甲3により、ニッケル・カドニウム蓄電池において充電末期に電池の端子電圧は急激に上昇した後下降するという現象、及び、この現象を利用してその電圧のピーク点を検出して充電を停止する、かつ、その際その電圧の立ち下がりを検出して充電を停止することは、本願の出願前公知であると認められるから、甲1記載の「充電器」において、かかる検出手段を付加してその出力信号を自動的に充電を停止させる信号となすこと、および、該信号で充電回路を停止させることは、当業者にとって容易に考えられることと認められる。
したがって、前記操作3-2及び3-3における付加は、当業者が容易に考えられることと認められる。
第6、審判請求人の主張について、
1、前記主張1について
そのとおりである。
2、前記主張2について、
仮にではなく、前述したように「本願発明の前記C乃至Dの構成要件」は前記甲1及び甲2に開示されている。
3、前記主張3について、
特許請求の範囲には「指定電圧」と記載されているだけで、「満充電後の放電電圧特性が良好なものとなる迄の放電」は、特許請求の範囲には記載されおらず、かつ、上記「指定電圧」を「満充電後の放電電圧特性が良好なものとなる迄の放電」の目標電圧に限定解釈すべき理由がない。
この点の主張は、本願発明の要旨外のことに基づく主張であるから採用できない。
よって、この事項を除いたその余の主張は肯認できる。
審判請求人の前記主張は、本願発明と前記甲1~3記載のものとを個々に比較した結果を述べているだけにすぎない。
従って、審判請求人の主張は、採用できない。
第7、結論
以上総合すると、本願発明は本願の出願前国内において頒布された甲第1号証(特開昭55-109143号公報)に記載された発明、及び甲第2号証(米国特許第3938021号明細書)または甲第3号証(特開昭53-28246号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められる。
従って、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものと認められる。
よって、結論のとおり審決する。
平成6年12月27日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)